クライミングを教えているときに、よく見かける動き「反動」。遠いホールドを取りに行くときに、反動を使って思い切って取りに行く、躍動的な動きのこと。運動が苦手な人より、運動が得意な人が安易にやりがちな動き。反動をつけることは悪いとは言わない。反動をつけることによって、体が伸びて、遠いホールドが取りやすくなるから。反動をつけて取りに行くように言っていないのに、反動をつけて取りに行こうとするときに、私は注意をするようにしている。「今取ろうとしているホールドは反動をつけるほど遠くはない。だから、反動は使わず、静動で取ろう」もし反動を使うなら、その反対の静動を学んで欲しい。静動のことを、クライミングのテクニックで「スタティックムーブ」という。ゆっくりジワーっと引き付けて、次のホールドを正確に取る動きのこと。反動のような勢いを使わないので、ゆっくりと引きつける筋力が必要だが、確実にホールドを掴みに行けるので、取りに行こうとしているホールドが持ちにくいホールドの場合、取り損ねることを防げる。また、勢いがついていない分、ホールドを取り損ねたときに、指を負傷するリスクも軽減出来て、一石二鳥。

ワールドカップなどの影響で、一般のジムでもメジャーになった特大のホールドやハリボテ。そして新しいムーブ「コーディネーション」。壁の中で、反動を使って、飛んだり跳ねたりする動きのこと。今では、ジムにも一般向けにコーディネーションを使った課題が増えている。一般クライマーがそういうホールドやムーブにチャレンジすることは悪いことではない。でもその前に学んで欲しいこと、出来るようにすべきことがある。それがスタティックムーブとカチなどの指系の細かいホールドを持てるようにすることだ。

ダンベルを持ち上げる動作を想像してみよう。それをゆっくり持ち上げるのと、反動を使って早く持ち上げるのとで、どちらが筋力アップにつながるか? 反動の動きをするなら、まずは静動を極めて筋力アップ。そして細かいホールドを確実に取って、スタティックに引き付けて、指力アップ。クライミングに必要な力を少しずつ身につけたら、ぜひハリボテやコーディネーションムーブにチャレンジしてみて。反動で取りにいった後に、流される体をどう止めるか、ここは静動の練習で身につけたバランス力を活かすチャンス。

反動の前には静動があることを忘れないで欲しい。コーディネーションのような動きは、見た目の派手さもあり、トライするのは楽しいかもしれない。しかし、派手な動きにはリスクが伴う。勢いで取りに行ったホールドを押さえられるだけの指力が自分にあるか?

ちなみに、自然の岩を登るときには、コーディネーションのような動きは控えたい。小さくて薄いマットが1、2枚しかない状態で、どこに転げるか分からないムーブは、スポッターが何人いても危険。自然の岩にはカチ系のホールドが多いので、ジムでは特大ホールドやハリボテばかりではなく、指を鍛えられるような細かいホールドを使った課題もたくさん登ろう。トレーニングボードだけでは、スタティックも含めた、様々なバリエーションのムーブ練習は出来ない。

コロナ禍の夏、激混みの小川山、ドクターヘリを呼ぶようなクライミング事故が2件起きた。各クライマーが普段からジムでやっておくこと、各ジムがクライマーに教えておくべきこと、いっぱいあるよね、・・・奈津子オーナーの独り言でした。