クライミング用語といえるか分かりませんが「レスト」という言葉を聞いたことはありますか? 「休む」という意味ですが、クライミングにおいて「レスト」という言葉は、同じ意味でも2つの使い方があります。
クライミングは他のスポーツに比べると、筋肉だけでなく、指関節や腱に大きな負担がかかるスポーツです。ご存知の通り、指関節や腱は、筋肉に比べとても小さな部位。こんな小さな部位に自分の体重がかかるのだから、負担は相当大きなものとなります。指関節や腱を強くすることが、クライミングのレベルを上げるには重要ですが、筋肉と違って、この部位を強くするのは簡単なことではありません。強くするために負荷をかける(トレーニングする)のはもちろんのことですが、酷使した後はケア(アイシング)と「レスト」が大事になってきます。どういうことかというと、一般的な筋トレは内容によっては、毎日行うことが出来ますが、クライミングにおいて指関節や腱を強くするためには、クライミングする日とレストする日が必要なのです。クライミングをした翌日にしっかりと休ませることで、指関節や腱が徐々に強く育ちます。クライミングしない日=レスト日。これが「レスト」のひとつ目の意味です。
もうひとつの「レスト」の意味は、クライミング中の「休憩」を指します。クライミングをやったことのある人なら、経験済みと思いますが、始めたばかりの頃は、ほんの数回登っただけで、前腕があっという間にパンパンになります。これをパンプと言います(某大手ジムの名称がコレですね)。上級クライマーでもない限り、パンプした状態では、登り続けることは出来ません。そこで必要なのが「レスト」。休憩を取って、登れなかった課題をオブザベーションし直したり、ドリンクを飲んだり、他のクライマーが登るのを眺めたりして過ごす時間です。休憩をしたからといって、完全に回復するわけではありませんが、腕の張りは多少引きます。そこで、さっき登れなかった課題に再チャレンジ。ジムにいる間、クライミングとレストを繰り返して、もうどうにも回復しなくなったら、お開きです。
クライミングを始めたばかりの時は、このレストの取り方やタイミングが難しい。どれぐらい登ると疲労して、どれぐらい休めば回復するのか。私たちインストラクターは、レッスン中にそれぞれの生徒さんの疲労感や回復具合を見極めながら、限られた時間の中で、より良いパフォーマンスで登れるように、常にタイミングを見計らっています。
ここで問題がひとつ。クライミングは達成感を得やすいスポーツで、目指したホールドを掴めた瞬間に、アドレナリンがドバッと出ます。このアドレナリンによって気持ちが高揚するのはいいのですが、「疲労感がマヒする」というデメリットもあります。本当は疲労してるのに、自分はまだ登れる!という錯覚が生まれるのです。インストラクターから見ると、ホールドを掴んでる腕の両脇が開いてきていて、どう見ても疲労しまくりの状態。ところが、本人はアドレナリンによる錯覚で、やる気全開。ここでほとんどの場合、インストラクターが状況を説明して、理解してもらえるのですが、「もう少し休憩して下さい」という言葉に、「何でもっと登らせてくれないんだ!?」と機嫌を損ねる方がたまにいます。このイラッとしてしまう原因が、これまたアドレナリン。だから、その生徒さんが短気だからとか、性格の問題でイライラするわけではないのです。
アドレナリンには良い作用もあるし、悪い作用もあります。トップアスリートはその強靭なメンタルと観客の熱い応援で、アドレナリンを全開にすることにより、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれます。一般の方がなかなか彼らと同じようにはいかないかもしれませんが、上手にレストを取り、アドレナリンを味方につけ、私たちもクライミングを精一杯楽しみましょう!