J&S池袋をやめた常連さんが、新たに通っているジムで怪我をするという話しがたびたび耳に入る。ここで基礎から学び、怪我なく続け、順調に上達し、立派に巣立っていったのに、新天地での怪我で長期間お休みすることになったり、それがきっかけでクライミングから縁遠くなったと聞くことは、クライミングを指導した身にとって、実に悲しい話だ。
 クライミングが危険なスポーツだということを忘れてはいけない。クライミング前には、準備体操だけではなく、肩や指の部分ストレッチも大切。いきなり高難度の課題を登るのではなく、易しい課題からしっかりウォームアップ。クライミング後は、易しい課題でクールダウン。6級を登り始めるようになったら、帰る前に手指のアイシング。J&S池袋のレッスンでは、クライミングの基礎やテクニックだけではなく、そういったことも指導している。
怪我をしないように気を付けなければいけないのは、クライマー自身であることは言うまでもないが、ジム側も課題作りに気を付ければならない。初心者や中級者に無理なムーブをさせて、ホールドを取り損ねて、悪い体勢で落ちれば、着地の失敗で捻挫や脱臼が起きる恐れがある。もし自身のグレードに合わない課題にチャレンジしているクライマーがいれば、ジムスタッフは遠慮なく注意すべき。一人に注意すれば、周囲のクライマーへの注意喚起になる。
 疲労した時と緊張感が無くなった時が、もっとも危ない。「高揚感」や「慣れ」が誘発する怪我や事故も多い。仲間同士で盛り上がって登ってるときに、応援のつもりが「煽る」ことになる場合もある。煽られたとしても、自分の状態(レベルや疲労の度合)を理解して、セーブすることも大事。
 私のお師匠さんからの教え。「いつもより早めに帰るお客さんは、怪我をした可能性があるので必ず声がけをする」、「ジムで一人でも怪我人が発生した課題があれば、その課題は無くす」、「岩場での事故は、午前より午後、特に夕方が多い」、「“あと一本“が命取り。ムリは禁物。酒もクライミングも同じ」、「常に謙虚であれ」。
 クライミングはインドアでもアウトドアでも、危険を伴うスポーツ。だからといって、過剰に怯えていては前に進めない。正確な知識を身につけて、しっかりと経験を積み、その都度自分の状態を理解して、正しく怖がって、安全に取り組もう。この楽しいスポーツを長く続けるために。